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前回までの俺の回想――森の中で空腹のためぶっ倒れた。そんな俺に忍び寄る影が……。そして気がついた俺を待っていたのは。
ああ、この芳しい香りは……。
飛び起きた俺はガガッと、目の前にあった焼き魚の定食を食った。鯛丸ごと一匹!
白いご飯に赤だしの味噌汁。ああ、生卵と納豆もある!
パリッとした海苔の香ばしい味。
……そうそう、この緑茶で決まりなんだよな。
どれも記憶に懐かしい――あれ?
「まさか……」
俺は箸を口にくわえたまま、注意深く周りを見た。
洋風の部屋にはベッドに窓にクローゼットにバスルーム。白い絨毯は足跡ひとつない。
が、よく目を凝らしてみると、四角い跡がいくつもあった。
ベッドでも動かしたんじゃないのか?
けどどうして三島は俺を助けた?
やっぱり人質にするつもりなのか?
仁の親父――デビルマジシャンカズヤが。
たしかにこの朝食は三島家の味だ。
まさか毒とか入ってない……よな???
だって人質だもーん。死んだら意味ないし。
……。
俺は慌ててバスルームへ駆け込んだ。
「あら、お目覚めしたようね」
背後から女の声。
かわいい雰囲気だったが、ここは三島の巣窟。
すぐ反撃できるよう構えながら、ゆっくり振り返る。
「……って? あれ?」
「仁のお友達っていうから、張り切って朝ごはん作ったのよ。どう、お口に召したかしら?」
「口にメスもなにも……新型のボイスレコーダーかよ?」
「失礼ね。私は準。仁の母親です」
「あいつの母ちゃん、ビジンダー(注:すごく昔放映されたロボアニメのヒロインメカ)だったのかよ……ま、まさか」
「残念だけど、仁はまだ帰ってこないの。ずっと……」
「メカが感慨にふけってどうする……」
俺は動揺していた。
目の前にいるのは準という女じゃなく、銀色に光り輝く鋼のボディのロボットだったからだ。
ウィィンとメカ音を響かせながら、ロボジュンは俺にタオルを差し出してくれる。
「さあ、顔を拭いたら、うちの主人に会ってちょうだい。お話があるらしいの」
「マジシャン相続の争いならゴメンだぜ。勝手にやってくれ」
「まじしゃん? プログラムにない言葉……私はカザマジュン……ナンバー5414664該当ワード検索中――ピピピ」
「マジにメカやってる」
呆気にとられる俺だったが、新たな足音で我に返る。
バスルームの入り口で見たのは、紫の髪とサングラス姿の男だ。
「おはよう、ファラン君。……どうだい、僕の新作メカ【コンボット】は? フフッ、なかなか素敵だろう?」
「べつに」
「まあまあそう敬遠することはない。ここではアレだから、居間でゆっくり話そう」
「……きさま誰だ?」
俺が思いっきりにらんでやると、男は余裕をみせるように肩をすくめる。
「僕はヴァイオレット。某大企業の会長だ」
「紫の髪にヴァイオレット……センス悪。だいたい髪を紫にするのは、婆さん連中って相場が決まってるだろ? 茶色にすればいいのに、なんでわざわざ妖怪色にするのか、未だもって俺は謎だ。しかもロボットを妻にするって、筋金入りの超オタク?」
「それはいいから、さあ居間へ!」
ロボジュンに奴が指示をすると、腕をつかまれて強引に居間まで引き摺られていく。
アイテッ!
さすがメカ。みかけによらず怪力。
「……ということだ、ファラン君。僕もあの風間仁を探している。でもなかなか手がかりがつかめず、親友の君ならひょっとして居場所を嗅ぎ付けているんじゃないかと思ってね。あの絵葉書を出してみた」
クラシックの流れる居間で俺はヴァイオレットと向かい合っていた。
よほど好きなんだな。シャツまで紫だ。
「じゃ、あれはアンタの仕業だったのか。ずいぶんと幼稚なまねしてくれたな。初めから素直に俺にきけばよかったじゃねえかよ……」
「三島の手が伸びているとも限らない」
「三島の仲間じゃないのか?」
「なぜ?」
「和食にジュンメカ」
「……ま、関わりがないとも言えなくもない。昔イロイロあってね。一八の息子を探しているのも、デビル化の血ゆえだ。……あれさえあれば、この僕だって」
そして「くくく」とヴァイオレットは笑っていた。
金持ち同士の小競り合いってとこだな、この様子だと。
コンボットとやらに仁の母ちゃんを真似させたのも、俺を探していたのもアイツを探しているため……か。
急にバカらしくなった俺は、屋敷を出ることにする。
「どこに行く?」
「おまえらあんだけ金持ってるのに、まだ欲が尽きないのかよ? やってらんねー」
「ま、まってくれ。協力して平八を葬ったら、財産を山分けしてやってもいいんだぞ」
「無理だな、きっと」
「何も知らないくせに断定するな」
「だってよ、俺がここに来るまで、カズヤに知られちまったんだぜ。呆気なく。ということは、アンタの情報網はどこからか漏れているっことだ。相手が上手ってこと」
「そ、それは……」
「ということだ。じゃあな、オッサン」
「オッサン……」
俺は引き止めようとするヴァイオレットを無視して、出口目指した。
まっ、あとはワン爺さんに携帯……は奪われてないけど、シャオの番号覚えているから、そっから電話して助けてもらえばいいことだ。
騒々しいバカンスだったけど、旅の思い出ということで。
この調子だと仁のやつ、オーストラリアを出国していることだろう。これだけ騒ぎになったんだから。
「さ、日本に帰ってシャオに土産話でもしよっと〜♪」
玄関を出た。
同時にコンボットの軍勢に出くわした。
「息子を捕獲しなきゃ」
「息子を捕獲しなきゃ」
「息子を捕獲しなきゃ」
「息子を捕獲しなきゃ」
「息子を捕獲しなきゃ」
…
…
…
以下連呼。
「おわぁあああッ! 気味悪ぃぃぃぃ!」
あの準の声で一斉に俺めがけて迫ってくる。
俺は猛ダッシュした。
庭に出てそいつらをなんと振り切る。
だだっ広い車道に出た。すると、運良く一台のタクシーが!
「ヘイ、タクシー!」
すぐに停車してくれ、俺はそれに乗り込む。
「お客さん、どこまで行きますか?」
女の声。しかも聞き覚えのある。背中は銀色に輝く――。
「おわっ! ロボジュンかよっ!」
「愛する旦那様のために、捕獲しなきゃ」
俺は発車した直後、飛び出して逃げる。しかし、すでにコンボット軍団に取り囲まれてしまった。
……結局、また人質に逆戻りかよ……。
でも俺なんか捕まえても、価値はないと思うんだけど。
はあ……。
ため息しか出てこない。
いつになったら終わるんだ、この物語……。
「あーはっはっは! これで愛しの準――じゃない、三島家を我が掌中に収めることができる! 見ていろ、三島ゲジ眉親子!」
アンナはどうした、リー?
そのセリフで正体バレバレだぞ。
などと素朴な疑問をぶつけながら、根性で次回へつづくぞ!
[9]へつづく
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