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前回までの俺の回想――デビルマジシャンカズヤ(←花郎の勘違いです)に人質にされた俺だったが、見事すぎる天性の危険回避技を使ってなんとか脱出できた。
しかし、ここは森の中。夜の闇が容赦なく俺を襲う……。
「ここはどこだっっっっっ!!!」
俺は叫んだ。
返事はない。あの鉄拳衆連中も、俺なんかに目もくれずとっとと、戦車やジープに乗って逃走しちまったから、俺は一人、取り残されたわけだ……。
あーあ、腹減った……。
そういや、朝、機内食を口にしてから、まともに何も食っていない。
飯に行こうとしたら人質になったもんな。
どさくさにまぎれて、冷蔵庫かっぱらってくりゃよかった。
これが唯一のミス――最大のミステイク。
「う……餓死しそ……。こういう時こそ仁のやつが頼りになった……よな」
――朦朧とする意識の中で、俺は回想する。
俺「ひぃぃ……しんど……。裏山でキャンプのはずだろ。このどこが裏山なんじゃっ!」
仁「三島家の敷地内だから庭とも言える。裏山と表現しただけでも感謝しろ」
俺「お家の庭にロープと登山靴とザイル。そんなもん持っていくヤツがどこにいるんだよっ!」
仁「お爺さま」
俺「……あれを人間として換算するのは反則だぜ」
仁「そうか? 母さんもピクニックには、ブーメランとかサバイバルナイフとか麻酔銃を持参したぞ。時々、密猟者が潜んでいるから、ついでに撃退する。それが普通かと思っていたが……」
俺「おまえの普通は、俺の驚きだ。それより、腹減った……」
仁「もうすぐ頂上だ。それまでがんばろう!」
俺「がんばりたくないぜ。俺はただバーベキューを楽しみに……はあ……はあ」
息も絶え絶えの俺だったが、山頂はそれは見事な景色だった。
俺「すげー……に、庭になってる! 巨大な箱庭じゃねえかっ!」
仁「だから言ったろう、ここは庭だって」
俺「巨大盆栽の森に、砂漠の砂川、水平線がある池……あ、あの赤いの鯉か? それにしては鯨みたいにでけえぞ」
仁「あそこは三島研究所で作られた生物の住処になっている。……元々、廃棄していたらしいが、さすがに生命を取るのは許せないから、俺がお爺様に懇願して、あそこに放してもらっているのさ」
俺「じゃ、正体不明ってことか……半魚人とかいたりしてな」
仁「いるぞ」
俺「ええっっっ!!! マジ?」
仁「マジだ」
俺「マジマジ?」
仁「俺の言うことが信じられないのか?」
俺「信じろというほうが無理だ」
仁「わかった。すぐに行こう」
俺「行くって、飯は……」
仁「現地調達するつもりだったから、行きながら見つけよう」
俺「おい、仁! そのどこがバーベキューなんだよっっっっ! な、涙出そう……」
仁「え? バーベキューって現地調達するものじゃないのか?」
俺「もういい……もういい……おまえに真実のキャンプをレクチャーしない三島家が悪いんだ……いいんだ、いいんだ……」
仁「……」
それから俺たちは山の反対側を下り、無事、目的の人工池までやってきた。ちゃんと巨大な庭石で囲まれて、和風庭園そのものだった。
俺「半魚人は?」
仁「……これを使っておびき寄せるんだ」
俺「は……? これが餌? どうしてハイヒールが?」
仁「見ていろ」
仁が赤いハイヒールを水面に近づけると、すうう、と2つの影が近づいてきた。魚にしては身体の線が人間らしい……。
俺「まさか、人魚?」
仁「ほら」
ジャッパーンと水飛沫を上げて飛び出した二匹は。
俺「うわっ! 美女じゃんかっ! しかもグラマーだぜっっっ!」
仁「……三島研究所の罪悪の象徴だ……」
俺「ロングストレートの金髪に、おかっぱの赤毛……ううっ、モロ俺好み♪」
仁「裸体では気の毒だから、シャツを着せているんだ。かわいそうに……」
俺「シャツじゃだめだ! ビキニだ、ビキニ!」
仁「……そんな恥ずかしいことできるわけない……だろ……」
俺「とかなんとか純情ぶっちゃってよ。……おまえ最高のペット飼ってそのセリフはないぜ。そうか。そういうのが好みだったのか……ひっひっひ。イイモン見せてくれてありがとよ。……よかったら一匹分けてくれ」
仁「え、本気か?」
俺「決まってるだろ。これを見て欲しくないほうが変だ」
仁「しかし、おまえには難しい……俺だって手におえないから、結局、女性研究員に任せているぐらいだし……」
俺「手におえない? 狂暴なのか?」
仁「というか……」
俺「なんだよ? もったいぶって。口では言えないぐらいスゴイことらしいな」
仁「すごいぞ」
俺「うう……楽しみすぎて、鼻血出てきそう……」
が、その瞬間、俺が目撃したのは壮絶な姉妹喧嘩だった。
俺「アンナって叫んでるぜ。ニーナ? どっかで聞いた名前だ」
仁「なんでもお爺様の知り合いの核細胞から、二人は作られたらしい。耳にしていても不自然じゃない」
俺「……」
仁「いつもこの調子なんだ。俺が触ろうとしたら、『男に触られたぐらいでいい気になってんじゃないわよ』って、もうすごくて、すごくて……だから、男子禁制の池とも呼ばれている」
俺「あ、ボキボキって、骨折れてる……のかよ? うわっ……次はパンチ。顔が潰れそう……美女が……もったいねえ……」
仁「これでも一応、魚だから回復力は異常に早いし、記憶力も人間よりずっと低下しているから、明日になったら忘れている。心配するな」
俺「心配するとかしないとか、そういうレベルの問題じゃないような……」
仁「さあ、行くぞ。これからバーベキューの準備だ」
俺「……あ、ああ」
そうだったよな。そういうこともあったよな……。
それから川でシャケを捕獲して……もちろん、仁のやつが素手で捕まえて、焼いて、うまかったなあ……。
森でも野草とか木の実とか採っていたから、サバイバルの知識もあったんだろうな。
……ちゃんと真面目に教わってりゃ、こんな時……。
俺はその場に倒れこんだ。
……空腹もひどいが、疲労で身体が鉛のように重い。
眠ろう。
朝になればどうにかなる。
……だったらいいけどよ。
師匠の顔が浮かぶ。
そしてあいつの顔も。
もしかしたら、俺、ここで終わりなのか……?
死ぬ時は俺より強い男と闘って、勝利したけど力を使い果たした時、って心に決めてたのにな……。真っ白な灰になってよ。
はん。
ど、どうせ、テレビアニメの見すぎだよ……。
……。
気が遠くなる……。
「マスター。発見。発見。至急確保」
『とうとう見つけたか! 一八のヤツに見つからないうちに、早く連れてこい!』
「了解」
……そう、眠る寸前、耳にした……ような気がした。
[8]へつづく
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