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前回までの俺の回想――スティーブと出会ったのは偶然じゃなかった。ヤツの罠にはめられ、俺は仁を捕獲するための人質に。ビルの屋上で待機していた三島印のヘリコプターに乗せられ、ブリズベーンを後にする。
ヘリコプターは上昇し、ほんの数分前までいた街がたちまち小さくなっていく。夕日色に染まった機内にスティーブの姿はなかった。
どうやら鉄拳衆連中の会話から察すると、本来の目的は「仁と友人になる」ことだったらしい。けど、仁にそんな手は通用するはずもなく、たまたまブリズベーンにいた俺を使って、強引におびき寄せることになった……。
それで役目を終えた彼は、そのままジムに待機しているのだ。仁がそっちに来る可能性がないともいえない。
が、ここで疑問が浮かぶ。
――どうして俺がブリズベーンに行くことを、鉄拳衆は知っていた?
平八から?
じゃ、「三島家」と親しいワン爺サンが?
……その可能性が高いよな。
だって、仁の失踪とあの絵ハガキから、「平八が黒幕」だなんて感じ取れというほうが難しい。
くそう。
なんてことだ。
灯台下暗し。……意味あってたっけ???
自信ねえ……。
仁のやつにいつも試験前に世話になるほうだったから――なんだかんだ言っても、俺、あいつに迷惑かけっぱなしかもしれない。
留学した時だって怖がって近寄らないクラスメートの中で、最初から唯一、親切にしてくれたのもあいつだったし。
小遣いが足りねえ時は、黙って後についていったら、さりげなくおごってくれたし。平八の家に何度も行って、高級飯+檜風呂+羽毛寝具+日本舞踊(これだけは勘弁だったけど)を堪能させてもらったなあ。
ライバルというより……保護者……か……。
韓国にいるときは師匠が……なんだかんだ言っても、結局、悪さの始末はしてくれた。説教つきだけど。
――つまり、俺って。
「お子様じゃん……」
ため息が出てくる。
あのスティーブを警戒したにもかかわらず、こうして、仁を捕らえるための人質になったのが……情けない。
そうだよな。これ以上、あいつに迷惑かけたら、ずっと一生、頭が上がらない。
なんとしてでも逃亡しなくては。
俺は鎖を引き千切ろうとしたが、超合金でできているのはお決まりだから、それは無意味だった。
空にいる限り、逃げ場はない。
着陸してからが勝負だな……。
ヘリコプターは緑の郊外へ着陸した。ほんの十数分の距離だったが、すでにブリズベーンの街ははるか遠い。
降り立った俺は目を見開いた。
「でっけー、屋敷だ……しかも趣味悪りぃ」
映画でよく見る安っぽいセット風そのまんまの、『悪魔の館』。
お決まりの鉄柵には茨が茂り、石壁の家には蔦が這っている。冷たい石でできた建物はまるで古城だ。
俺はその屋敷へと通される。ふて腐れた顔のまま、鉄拳衆に引っ張られているから、まるでブルドックだな、こりゃ。
長い廊下に真っ赤な絨毯。明かりは今にも綱が切れそうなシャンデリアのみ。
なのに、なぜか数え切れない量のスニーカーが何足も並んでいて、シューズボックスみたいな屋敷かもしれない。
……しっかし、よくこんだけ集めたな。
廊下の次は螺旋階段。で、その一段、一段、違う種類のスニーカーが置いてある。サイズも同じだ。……履いたらちょっと俺には小さいかも。
「人質、ボスがお待ちだ。さあ、入れ」
「……その前にこの鎖を外してくれよ。これで面談は失礼だろ」
「ボスの指示があれば外す」
……ダメか。
この隙を狙って逃走――ってうまくいくほうがおかしい。
鉄拳衆が開けた扉をくぐる。
そこにいたのはタキシード姿の――。
「じ、仁……! ……ちがう。こんなオッサンになってねえもんな」
「――ふっ。おまえがバカ息子の親友か――予想以上にバカっぽくて、俺は嬉しいぞ」
「え、え、え……まさか……」
俺はわが目を疑った。
逆立った髪の毛、異常に太いゲジゲジ眉、鋭い眼光――たしかに仁に似ている。が、あいつはそんな目、していない。
人間というより、魔物めいた赤い瞳が、俺の背筋を寒くさせた。
「ようこそ、我が館へ。といっても、ここに滞在するのはアレをおびき寄せる間だけだが」
見下したような不気味な笑みを浮かべる口元には――き、牙がっ!
「……アレって、仁のことか?」
「そんなモノに名など要らん。アレは元々、俺の道具にするために作ったものだ。さらなる魔力を手に入れるための――」
「お、オッサン……それって、よくホラー映画にある『生贄』ってやつ?」
「オッサンとは失礼なッ!」
ゴォォォッ!と、強風が全身を叩きつける。俺も吹き飛ばされ、壁にまともに激突してしまった。
「……きさまごときにオッサン呼ばわれされる筋合いはない! いいか、よく聞け。俺は魔界人だ。そしておまえはただの人間。これですでに上下関係ができている。口答えすることは、決して許されん」
「でもよ、アンタ、仁のオヤジだろ? ……ってことは、平八の息子じゃん。あの爺サン、どっからどう見ても、人間だぜ。性悪なのは魔界で通用しそうだけど」
「血縁は関係ない。ただ、魂を魔界王に捧げる。それだけだ。バカには少々、難しいかもしれんがな」
そして得意げに仁のオヤジは笑う。
……アホくせ。
なーにが、魔界の王だ。
それこそオカルトマニアの証拠だってーの。
高専にいた時も、オカルトマニアがいて、同好会まで作ってたよな、たしか。
変な円陣描いて、呪文唱えて……で、なんでか知らんが、空手部室の隣だったもんだから、俺は壁をわざと叩いて「ウォォ……」と唸り声を上げてやると、連中、すごく驚いてた。……おいおい、信じてたんじゃなかったのか? 腰を抜かしてどうする?
……そうなると、かなりのマニアだな。このオッサン。平然としてるしよ。
あの仁が親元を離れて暮らしたのがよく分かるぜ。
「おい、きさま。……急に回想モードに入るな。俺にも喋らせろ」
そしてオッサンは俺の鎖に触れる。と、瞬時にパラパラとそれは崩れて消えた。
「す、すげーっ! 新種の手品? 仁のオヤジって、オカルト好きのマジシャンだったのか! へえー、あいつからは想像できなかったな」
「おい、何度言ったら分かる? 俺は魔界人……きさまごときにレベルを同じにされても困る」
「それぐらいスゴイマジシャン! ……その目も精巧なコンタクトで、強風も部屋に仕込まれた巨大扇風機で、鎖も特殊な素材でできていて、電気を通したらあっという間に消えてなくなる……って具合だろ? ってことは……あれ? そうか、仁を取り戻すのも、マジックの後継者にするためだったのかっ! そうか、そうだよな。これぐらいスゲーネタは秘伝に決まってらあ。他人に譲りたくない気持ち、よーーーーく分かるぜ!」
「きさま本当に息子の親友か? というより、そっちが勝手に思いこんでいる可能性が高いな。えらい、空想癖の強い男だ……。しかし、これを見ても言えるかな?」
と、オッサンはいきなり、タキシードの上着を脱いで、俺に背中を見せた。
「肩凝ってんなら、俺が叩いてやるぜ、オッサン」
バササッ!
「……」
「どうだ! これを見てもきさまはまだ、ゴタゴタぬかす気か?」
「つ、つ、つ、翼……。蝙蝠人間……」
「ほらほらほら、空も飛べるぞ!」
オッサンが天井に浮いた。
「すげぇ……まるで、イリュージョンマジック……」
「ええい、何度言ったら分かる! マジックじゃない!」
「でもテレビで見るのはこんなカンジだったぜ。……それだけじゃ納得できねえな、俺は」
「そうか。こうなったら、アレだ!」
バリン、と窓を突き破ってオッサンは空を高く飛ぶ。
俺は呆気にとられ、その光景を眺めていた。
――と、星空から、突然流れ星――いや、真っ赤なレーザー光線だ!
よく目を凝らしてみると、オッサンから発射されている。
「ヨッ、真夏の花火! たまや〜! さすが、マジックの大魔王だけあるぜ!」
俺はそう叫んだ。素直に誉めたはずなのに、さらにレーザー……というか、太いビームになって、屋敷を直撃する。
「まだ分からんのかっ!」
「屋敷爆破なんてしょっちゅう平八もやってるぞ! 怖くなんかないもんね〜!」
「……あの、あのオヤジ以下だと……ええいッ!!!」
さらにビームは数を増やし、どんどん屋敷めがけて発射された。
ドゴォーン!
ガゴーーン!
と堅固な石壁が打ち砕かれている。
……さすがの鉄拳衆も、危険を察知したらしく、我先にと逃亡した。
「カズヤ様ご乱心!」と叫びながら。
俺もそれに便乗して逃げることにする。
なぜか知らないが、うまくその場を切りぬけられたようだ。
人質生活もわずか一時間で終わりを告げた。
なんだかんだ言っても、俺ってナカナカ冴えてる……かも???
[7]へつづく
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